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「へえ。――ズブツとね」
昔はめったになかったように聞いているが、温泉場に近年流行するのは心中沙汰である。とりわけて、東京近傍の温泉場は交通便利の関係から、ここに二人の死場所を択ぶのが多くなった。旅館の迷惑はいうに及ばず、警察もその取締りに苦心しているようであるが、容易にそれを予防し得ないらしい。
房一は目を輝かせて云つた。
「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。
この男が入つて来たとき、徳次の仲間だつた二人の馬喰は急にぴたりと話をやめた。そして、落ちつきのない眼で時々そつと男の方をぬすみ見た。男はぢろりと一瞥した。それは荒い皺が隈取りのやうに走つている顔だつた。だが、それきり三人の方を見ようとはしなかつた。
「御機嫌だつたね」
「おい、早く早く」
「やあ、今晩は」
「笹井?――御隠居さんが云つたのかい」
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
「半之丞の子は?」
「心臓は多少弱つているが、大したことはない。――いゝかね、あんたの身体はもともと丈夫な身体だ。ようく診たがどこも悪くはない」
房一はそれに目をとめていたが、急に強い口調で、